さぽろぐ

趣味・エンタメ  |恵庭市

ログインヘルプ


インフォメーション


QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 0人
プロフィール
冬野由記
冬野由記
標高と緯度の高いところを志向する風来坊です。

2006年11月26日

第九章:地下都市 その3

「福澤さん・・・というと北炭の福澤さん? あの福澤翁の、たしかお嬢様と結婚されて、養子になられた」
「よくご存知で、光栄です。もっとも、先年、胸を病んで辞職しました」
「ほう。では、今は?」
「療養中にわずかばかりの貯えを元手に株を始めましてね。それが大当たりで・・・北炭時代よりもおおいに儲けましたよ」
 胸を張って元気よく早口で話す。話しながら、ときおり、男爵の肩越しに窓の外に視線を泳がせ、遠い目をすることがある。
 この男、頭の回転はすこぶる速いらしい。ただ、一見、軽妙洒脱な好青年だが、どこか暗い、怒りのような鋭さを持っている。虚勢ではない。虚勢ではないが、何か、自分の本来ではないところで威を見せねばならないもどかしさのようなものがある。自分の居場所が見つからないまま、その才を十分に発揮できずに、苛々しているのだな。悪い男ではないが、好人物でもない。
「金は使うためにある。小さな金なら、己を飾るために使いますがね。何十万という金です。大きな金は何か役に立つものに投資すべきでしょう。こう言っては何ですが、相場で儲けた、いわば『虚』が生んだ金です。これを『実』に変えなければ儲けた意味が無い」
「つまり、炭鉱に投資したい、とおっしゃるのですね」
「月並みな発想だと思われるかもしれませんね。あるいは、固い投資先。いまどき炭鉱に投資するというだけなら、芸はありませんね。間違いない投資先ですからね。しかし、星男爵、私は、あなたなら新暁幌炭鉱を、これまでに例の無い、まったく新しい事業にしてしまうのではないかと思っているんですよ。・・・地下都市を建設されると聞きましたよ」
「都市、というのは大げさかもしれません」
「いや、都市であるべきでしょう。地下に大都市を創る。面白い」
「投資は歓迎します。ただ、計画には・・・」
「口出しはしません。私は、見たいんですよ。まったく新しい、類例の無い事業をね。あなたなら、きっとやる。そして、学ばせていただきますよ。いずれ、私も、類例の無い新しいことをやってのけたいのでね」
 面白い男だな、と星は思った。
「あらためて、歓迎しますよ。株主になっていただきましょう」
「もちろん、儲けさせていただきますからね」
 儲けか。もう一皮剥ければたいした男になるな。儲けを捨てる気になったとき、この男は大きな仕事を成し遂げることになるのだろう。

 類例の無いこと。
 星は、地下の大洞穴に街を建設し、そこを新暁幌の中心にすることを考えている。この段階で、すでに類例が無いとも言えるのだが、星は、更にさまざまなことを考えていた。
 その、もっとも重要な項目は動力源である。地上の設備であれば、炭鉱自体が産出する豊富な石炭を使って、蒸気機関でさまざまな設備を働かせればよい。しかし、地下で石炭を燃やせば、空気を清浄に保つことが難しい。そこで、星が考えたのは電気だった。すなわち、洞穴内の豊富な地下水脈を利用して、地下で水力発電を行う。巨大な設備を動かすにはおおがかりなダムが必要になるが、何箇所か流れが適した水脈を選んで、小規模な発電設備を設置すれば、全体としてはかなりの電力を地下の街に供給できる。さらに、電気であれば、地上に石炭を利用した火力発電設備を建設して、もっと大量の電力を地下に送電することもできる。これらの電力を徹底的に活用した街と採炭設備を構想していたのである。街の灯りや昇降機の動力だけではない、トロッコや機材の運搬も、蒸気機関車ではなく、電力で動く機関車を、各家庭で必要となる煮炊きや湯を沸かすための火も電熱器を、すなわち、地下の電気都市である。
 やがて、計画は練られ、洞穴内の大きな地底湖のほとりに、新暁幌炭鉱の中心街となる新暁幌市の建設が着工された。そして、建設途上ながら、電力設備が徐々にととのい、半年を経ずして、地下には数千人の坑夫が住む街が誕生し、石炭を満載したおびただしい数のトロッコが地上に運び出された。

 二十世紀の未来電気都市 新暁幌炭鉱

 稼動を始めた新暁幌炭鉱には、日本中から見学者が押しかけた。

Copyright (c) 2006 Ando, Tadashi & Fuyuno, Yuki All rights reserved.

あなたにおススメの記事

同じカテゴリー(連載小説)の記事画像
ちょっと休憩<挿絵>
同じカテゴリー(連載小説)の記事
 ページデザインを変更します (2007-02-18 17:34)
 あとがき:最後に (2007-02-15 23:30)
 結:神々の永遠の火 (2007-02-15 23:20)
 大団円:地上の楽園 その2 (2007-02-14 22:22)
 大団円:地上の楽園 その1 (2007-02-14 22:14)
 第二十六章:暁幌よさらば その4 (2007-02-12 20:03)
Posted by 冬野由記 at 03:49│Comments(0)連載小説
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
削除
第九章:地下都市 その3
    コメント(0)