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冬野由記
冬野由記
標高と緯度の高いところを志向する風来坊です。

2007年02月12日

第二十六章:暁幌よさらば その2


 祝賀式典が終わった後、市民たちは花火大会に興じ、あるものは地上に行楽に出かけ、ある者たちは地底湖畔を散策した。地上の紅葉もいいが、一段と電飾に彩られた街の景色を、鏡のような静かな湖面とともに楽しむのも悪くない。とくに、若い市民たちは湖畔を思い思いに歩いたり、語り合ったりして楽しんでいた。輝とネル、若と若奥さんのように。

 湖面に波が立ち、ざわめいた。
 おかしなこともあるものだ。
 よく見ると、わずかだが湖面がうねっている。
 変だぞ。

 やがて、湖畔を歩いていた何人かが、湖の水位が徐々に上がっていることに気付いた。彼らの足元を湖の波が濡らしたのだ。この地底湖には潮の満ち干もなく、岸に寄せるような波も立つことはない。

 不安にかられた市民たちは、あわてて市街に戻り、湖面を見つめた。
 確かに、湖面がざわつき、水位が上がっている。
 市民たちが騒ぎ始めた。

 湖畔の祝典会場で市民の様子を眺めていた星男爵と日下亨、それに岩崎も、ただならぬ様子に気付いた。
「男爵!」
「岩崎君、奥のほうで何かあったかもしれん。水脈が関係しているようだな」
「星さん。とりあえず、市民を丘のほうへ行かせましょう」
「日下さん、あなたもそう思うかね・・・岩崎君、市民を丘の公園に誘導してくれ」
「了解。市街に残っているものがないかも調べに行かせましょう」
「頼む。それから、日下さん、奥で作業している坑夫たちを、至急呼び戻してくれ」
「わかりました」
 男爵の指示で、亨と岩崎が動いた。
 異変を感じとった市民たちは、岩崎や警官たちの指示に従って、丘の公園に向かって移動し始めた。
 こうしている間にも、湖の水位が上がってゆく。湖面が徐々に盛り上がってゆくように見える。異常事態が生じたことは明らかだ。
「そう言えば・・・輝君たちは・・・どこへ行ったんだ?」
「男爵!」
 岩崎が駆け戻ってきた。
「市街のほうにも警官を一隊遣りました。幸い、今日の午後はあらかた地上(うえ)に出かけていますから、残っているのは一万に満たないと思います。それより・・・」
「君、輝君たちを見かけなかったか?」
「いや・・・そういえば・・・」
「で、それより何だね」
「地上から戻ってきた者の話では、暁幌湖の水位が下がっているそうです」
「何だって!」
 亨も戻ってきた。
「星さん! 奥から坑夫たちが戻ってきてます。あちこちで浸水が始まっているらしい」「日下さん! 岩崎君! 急げ。 暁幌湖の底が割れたとしたら、半端な浸水じゃないぞ!」
「親方ーっ!」
 若い坑夫が慌てて彼らのもとに走ってくる。
「どうした!」
「若が・・・若たちが・・・戻って・・・若が怪我してます。それから・・・」
「何だ! どうしたって!」
「暁幌湖の底が・・・抜けたって」
「岩崎君! 急がせろ!」
「了解!」
 岩崎が走る。
「君! 輝君が怪我だって?」
「はい! 銃で撃たれたと」
「何だって?!」

「星さーん」
 瑛たちが走ってきた。輝もネルも居る。
「輝! お前、撃たれたのか? 誰に・・・動けるのか? それにネル! 何てかっこうだ!」
 亨が珍しくうろたえている。状況が把握できないのだ。
「かすり傷ですよ! 詳しい話は後です。男爵! 早く市民を丘の上に・・・」
「もう手は打った。君、怪我は本当に大丈夫なのか」
 瑛が輝に肩を貸しながら怒鳴った。
「大丈夫じゃありませんよ! こいつ無理しやがって!」
「とにかく、皆さんも丘に避難してください」
 湖が盛り上がり、うねりが勢いを増し、湖畔と市街を浸し始めた。
「我々も急ごう」
 彼らは市民の後を追うように、丘の公園に向かった。
 そして、膨らんだ湖面が波を打ちながら彼らを追う。
 湖畔と市街のあちこちで照明が消え始めた。発電と送電の設備が何箇所かで機能しなくなったのだろう。

 新暁幌市、地底湖のほとりから広がる丘陵地帯に、市民の住宅や公共施設、公園が造成されている。人々は、丘の上の公園に集まり、固唾(かたず)を呑んで街が湖に沈んでゆく様子を見守っている。市街地と、丘の低いところにあった施設や住居はすっかり水に浸ってしまった。この様子では、奥の坑道はすっかり水没してしまったはずだ。

「なんてこった!」

 亨ががっくり膝を落とした。
「暁幌は・・・暁幌のお袋さんは・・・また眠っちまうっていうのか・・・」

 水の勢いがおさまってきた。水位の上昇が緩やかになり、うねっていた水面が落ち着き始めている。
「どうやら、このあたりまでらしいな。地下水脈や洞穴内の裂け目が、だいぶ引き受けてくれたらしい」
 男爵や亨たちが、丘の上から水際に向かって降りてゆくのを見て、市民たちも少し落ち着いたようだ。何人かが、彼らに従って湖面近くまで下ろうとした。
 そのとき、あたりに轟音が響いた。


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Posted by 冬野由記 at 19:51│Comments(0)連載小説
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