さぽろぐ

趣味・エンタメ  |恵庭市

ログインヘルプ


インフォメーション


QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 0人
プロフィール
冬野由記
冬野由記
標高と緯度の高いところを志向する風来坊です。

2007年02月15日

あとがき:最後に

あとがき:最後に

 子供の頃、ヴェルヌの ”LES INDES NOIRES” (邦題は「黒いダイヤモンド」)を読みました。ヴェルヌの作品は他にも「海底二万哩」や「地底探検」など、いろいろと読みましたが、私の一番のお気に入りは、この「黒いダイヤモンド」でした。
 ひとつには、物語の舞台が炭坑だったことがあります。少年の頃、炭坑街も炭坑で働く人たちも、そして石炭を満載した貨物列車も、私の住んでいた街ではおなじみの存在でした。ですから、物語の舞台は、私にはとても身近な世界でした。物語の舞台がスコットランドであったことも、私の趣味にあっていました。そして、何よりも炭坑の妖精ネルは少年だった私の胸をときめかしました。これが一番の理由だったかもしれませんね。
 毎日、学校帰りに図書館に寄り道することが習慣になっていた私は、この物語のきちんとした翻訳を探し求めましたが、ヴェルヌの作品としてはマイナーなのか、とうとう見つけることができませんでした。ですから、少年向けの抄訳を何度も何度も読みました。
 お気に入りの物語ではありましたが、いつの頃からか、私は百年前のヴェルヌの視点で描かれたこの物語を、それから百年経った時代を生きる自分の視点で、また、彼が生まれ育った欧州ではなく、この日本の歴史や暮らしの視点で描きなおすことを夢見るようになりました。

 長じて私が夕張を訪れたのは、そこに、今でも炭坑跡をきちんと見ることが出来る数少ない施設があったからです。「石炭の歴史村夕張市石炭博物館」は、炭坑や炭坑街、そしてそこに暮らす人々の様子を知るにはとてもよい施設でした。そして、夕張市街近くの丘陵には、まだ人々が暮らす炭住が残っていました。夕張の街をじっくりと歩くことができたことは、私にとってとても貴重な経験となりました。

「チャンネル北国TV」にブログを開設することになったのはまったくの偶然でしたが、夕張市がいろいろなことでご苦労されているというニュースを見聞きし、私の想いに沢山のヒントを与えてくれた夕張に感謝する気持ちもあって、この機会に少年の頃からの想いをこのブログにしたためてみたいと思った次第です。
 お話自体の出来不出来はともかくとして、私としてはいたって真面目に取り組んだつもりです。

 さて、この物語「地上の楽園 または 神々の永遠の火」の時代、日本はやがてロシアと戦争を始めます。それから大正、昭和と向かい、第一次世界大戦、第二次世界大戦という戦争の世紀に突入してゆくことになります。
 輝、ネル、瑛、ソフィはやがて大人になり、その子供たちの世代が生きる時代。暁幌がふたたび揺り起こされる時が来るかもしれません。いずれ、彼らの物語を、暁幌を舞台に書かなければならないだろうと、自分勝手に思っているのです。

 以下は原作から本作への翻案にあたってしたためたメモです。この際、何もかもさらけ出しておきます。

1.主人公たちの年齢を十代とする。
 原作では二十代に成長したハリーやジャックが主人公となるが、本作では彼らの年齢を十代に設定する。これは、この物語を少年少女の冒険と成長の物語にするためである。
 坑夫として育った瑛(原作のジャックに相当。以下、括弧内は原作の登場人物)は事件を通して学問への興味をかきたてられ、学術の才能を開花させる。教育機会と才能のエピソードとする。

2.新炭鉱は崩壊し、人々は地上に還る。
 原作とのもっとも大きな相違点となる。
 原作は産業革命と産業や機械文明の未来と健全な発展を予見している。
 しかし、本作では「狂気」に支配されたかもしれない穂村老人(シルファクス)の視点を見直す。
 人間が、眠っていた炭坑という女神を無理やり揺り起こしたのだ。さらに、女神の奥深くには、その時代の人間には手におえない恐ろしい力が隠されていた。穂村老人はそれらを人間の文明から守っていた。
 地底の楽園を夢見た人々の夢はもろくも崩れるが、楽園は造物主が地上に用意してくれていたのではなかったか。
 穂村老人は狂気の中で死ぬが、穂村老人の思いは皮肉にも成就することになる。

3.少年時代の亨と円、穂村十三のエピソード
 穂村(シルファクス)と、駆け出しの坑夫だった頃の亨(シモン)や円(マッジ)の回想は原作にはない。
 穂村を単なる凶暴な爆発係にしてしまったのでは、穂村は単なる狂気の人になってしまう。狂ってからの彼の行動に筋を通すためにも、壮年期の魅力的な人物像や亨、円との関係をととのえるべきだ。

4.新たな登場人物 ソフィとグスタフ(民族と近代国家主義)
 原作に無いあらたな登場人物が、このふたりと、ソフィの父レオンである。
 ソフィとグスタフは欧州近代の国家主義思潮にあって異邦人である。ソフィとその父は民族の誇りとコスモポリタニズムに準じようとするが、グスタフは国家に身を投じることで己のアイデンティティをとらえようとする。
 グスタフは近代に押しつぶされ、引き裂かれた英才である。
 こういった人物設定は、ヴェルヌのほかの作品には出てくる。もっとも有名なのはノーチラス号のネモ艦長である。近代に引き裂かれ、文明に復讐を誓う異邦人。ネモも敗れた民族の屈辱と怒りを、一種のコスモポリタニズム(ノーチラス号という空間がそれを象徴している。艦内は多民族空間であり、全員が異邦人であり、エスペラントと思しき共通語を使ってコミュニケーションをとる。この空間は海をさすらい続ける)に昇華しようとしながら、復讐という想念を断ち切れなかった。

5.核エネルギーと戦争の世紀
 新炭鉱の最奥部に眠る秘密。それが高純度の炭素にくるまれたウラニウムチップである。太古の昔、これによって地底の楽園が営まれていた。
 二十世紀初頭、近代欧州の列強は、富国強兵と国家至上主義を基本政策としていた。
 科学の世界では、新たな発見や発明が活発に行われた時代だが、これらは、国家政策によってさまざまな新兵器開発や産業の振興に向けられた。
 核分裂や連鎖反応についての発見や理論が明らかになってきたのはこの頃から少し後である。連鎖反応理論を予測し、不思議な炭素チップの手がかりをつかんだソフィの父親は、二十世紀の科学者としての宿命的な苦悩も背負うことになる。その苦悩は屈折した形でグスタフに受け継がれる。
 ちなみに、近代科学者や発明者の苦悩や狂気もヴェルヌの他の諸作品では、主要なテーマになっている。

6.古代ギリシアの遺跡と精神、タイトル「神々の永遠の火」
 核エネルギーを制御することができた古代の遺跡を古代ギリシア遺跡に見立てたのには意味がある。
 古代ギリシアの重要な箴言が、アポロンのデルフォイ神殿に刻まれている。それが、物語中にも登場する、地下神殿に刻まれた箴言「汝自身を知れ」である。(ソクラテスによって独自の解釈がほどこされ有名になった)
 これを含むデルフォイのいくつかの箴言は、古代ギリシアの人間観を言い表してきた。つまり、人間は、もとより未来を予見したり真理を言い当てたりする力をもたないのであり、予見できたとか、必ず行うとか、これが真理だと思った途端に、分を越えたそれらの言動の報いを受けるおろかな存在である、というのである。
 多くのギリシア神話のエピソードが繰り返しそのことを語り、わけても最高の神格のひとりであるアポロン(の神託)にまつわる物語は残酷といってよいほど「汝自身を知れ」と迫る。これらの箴言は、本作のテーマにも附合する。
 さらに、ギリシア神話では、ギリシアのはるか北方にアポロンが休息する楽園があると言い伝えられている異伝がある。しかも、この楽園を守る人々はヘレネス(ギリシア人が、ギリシア語を話し、ギリシアの文化を身につけている文明人=ギリシア人を自称してヘレネスと呼んだ)ではなく、異邦、異形の人々だというのである。アポロンは毎年、冬になると白鳥の引く車に乗ってこの北の果ての楽園に行き、浄福の民「ヒュペルボレア」の祭祀を受けながら冬の間を過ごす。これが北極をも越えた果てに浮かぶ島、東洋の北海道だとしたら物語的には面白い。(実際「ヒュペルボレア」は北アジアだとする説もあるらしい)
 ちなみに、タイトル「神々の永遠の火」とは、核エネルギーを指すと同時に、プロメテウスが人間にもたらした「滅びの火」に対して、ヘパイストスの炉に燃え、オリュンポスの神々が用いる「永遠の火」に象徴される神々の領分のことを指す。永遠と至福は神々の領分であり、滅びと労苦は人間の領分なのである。

7.その他
 <黒水晶について>
「一見豆炭のように見える高純度の炭素チップに適量のウラニウムのような核物質を封じて、これらを炉に配置して核反応を制御する」というのは物語を翻案する過程での思いつきだったが、その後、原電の技術者に聞いたところ、現在も使われている技術のひとつである由。

 <登場人物のネーミングについて>
 原作の「スター卿」から簡単に「星男爵」というネーミングにした。
 主要人物は、この「星」からの連想で「日」や「月」を含む姓にした。
 名前は「耀」「輝」「瑛」など光にちなむ文字をいろいろに読ませた。
 「亨」や「円」は適当、かつ感覚的に選んだ。
 「穂村」は「焔」つまり「火」である。「十三」も感覚的に選んだ。
 「ネル」は彼女の出自が謎のままなので、そのまま踏襲した。というよりもネルはネルだ、としか言いようがない。
 「ナプホルト」の「ナプ」はハンガリー語で「太陽」、「ホルト」は「月」である。こんな名前は実際には無いだろう。(あったらごめんなさい)
 「ライセンフェルト」の「ライセン」はドイツ語の「裂けた」、「フェルト」はハンガリー語の「大地」で「裂けた大地」となる。造語自体がドイツとハンガリーに裂かれている。こんな名前も無いと思うが、あったらごめん。
 ソフィとかレオン、グスタフなどは適当に選んだ。
 白梟の「アスプロス」は現代ギリシア語の「白い」にあたるが、本来は古典ギリシア語であるべきだろう。古典ギリシア語は未調査、というかよくわからないのです。

Copyright (c) 2007 Fuyuno, Yuki All rights reserved.

あなたにおススメの記事

同じカテゴリー(連載小説)の記事画像
ちょっと休憩<挿絵>
同じカテゴリー(連載小説)の記事
 ページデザインを変更します (2007-02-18 17:34)
 結:神々の永遠の火 (2007-02-15 23:20)
 大団円:地上の楽園 その2 (2007-02-14 22:22)
 大団円:地上の楽園 その1 (2007-02-14 22:14)
 第二十六章:暁幌よさらば その4 (2007-02-12 20:03)
 第二十六章:暁幌よさらば その3 (2007-02-12 19:57)
Posted by 冬野由記 at 23:30│Comments(0)連載小説
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
削除
あとがき:最後に
    コメント(0)